【私的レビュー】Next Lifetime/Erykah Badu <from『Live』(1996)>

『Live』/Erykah Badu

さて、今回もErykah Baduの名盤『Live』より、
Next Lifetimeについてレビュー等をしていきます。

こちらもオリジナルは97年のデビューアルバム『Baduizm』に収録されています。
Erykah Baduのこの当時の典型的な、妖艶なスモーキー感溢れる楽曲です。

さて、早速いってみましょう。

コードはシンプル

構成は単純で、3つのコードの繰り返しになります。

|A♭m7(9)|Am7(9)|B♭m7|

単純に、A♭m7(9)をトニックとして、全音上のB♭m7と行ったり来たりする感じですね。
このB♭m7は、同主調であるA♭メジャーのⅡmとでも解釈すればよいのでしょうか。
そして、間のAm7(9)は、その2つのコードを繋ぐパッシング的な役割でしょう。
この進行は割とよくあるというか、この行ったり来たりできる感じが便利で、
Aメロやブリッジ部分で非常に使いやすいです。私も困ったらよく使います。。

がしかし!やはりボイシング次第で同じコード進行も表情が変わります。
ただ単に上記コードを弾いても、ある種の"ヤバさ"みたいなものがあまり出ません、、

では、それっぽくなるボイシングをみてみましょう。

①A♭m7(9)…

下の音から、
G♭ B♭ B E♭ となります。
度数的には、♭7th、9th、m3、P5、です。
弾いてみると分かりますが、9thをオクターブ降ろしたため、
m3と実音的に半音でぶつかります。
しかし、このぶつかりによる濁りが非常にErykah Badu的な雰囲気を醸し出しますね。

②Am7(9)…

下の音から、
G B C E となります。
度数的には、①と同じく、♭7th、9th、m3、P5、です。
やはりこちらも半音でのぶつかりがとても効果的です。
さらに、①から全て半音上げればこちらのコードになるため、
運指上も非常にスムーズです。

③B♭m7…

下の音から、
A♭ B♭ D♭ F  となります。
度数的には、♭7th、R、m3、P5、です。
こちらも②から全て半音差なので、運指上非常にスムーズです。
さらに、トップノートがFになるため、①から③までE♭→E→Fと綺麗に繋がりますので、
音の方向性も明確です。

ムダのなさから生まれるグルーヴ

Erykah Baduらしさ溢れる曲ですので、この曲に限らず言えることですが、
やっぱりこの恐ろしいグルーヴ感は、シンプルな役割分担にあると思います。

基本的には、キーボードが上記ボイシングにて濁り感を出し、
ただひたすら白玉を重ねていく。
そんな言わば"横の流れ"というか浮遊感の演出に対し、ドラムとベースはむしろ音価をタイトにし、"縦の動き"をします。
これにより、お互いの相反する音価が効果的に際立ち、曲が躍動する印象を受けます。

もちろん、Erykahの声と、バックコーラスのコントロールされた声が、
曲そのもののダイナミクスを豊かに変化させ、楽器と声、その全てで魚の群れのような一体感をみせます。

つまり、それぞれがしっかりと違う役割を果たしていて、そこにはムダが一切無いので、
非常にシンプルな構成に関わらず、このようなErykahマジックにリスナーの体は揺れざるを得ないわけです。
これって言うのは簡単ですが、非常に勇気のいるというか難しいことで、
どうしても余計な音を増やして(それは楽器の数だったり、フレーズそのものだったり)、
お互いを補完するどころか潰し合う結果となるパターンになりがちだと思います。

しかし、Erykahは最小限の音で、ただしそれぞれにしっかりと個別の役割を与えることで、
ムダな音を省き、さらに適度なスペースも保たせることを成し得ているのでしょう。

途中で4beatにリズムチェンジしたりもしますが、そんなことはまあある意味どうでもよくて、こういった地味なベーシックな部分にこそ本質的なポイントがあるように思います。
改めて考えると、このライブ版は12分超えですからね、ただの3つのコードの繰り返しなだけで。
でも全然飽きないどころか、もっと聴いていられるような心地よさがありますよね!

ベーシスト目線

もう言うまでもなく、ベーシストであるHubert Eaves IVの"抑制"が機能した、
素晴らしいベースのお手本ですね。
曲が盛り上がる部分になると、ドラムも、キーボードも、Erykahもコーラスも、
みんなガーーーーーッと盛り上がっていきますが、ベースだけは原型をかなり保った状態を維持し、曲が吹っ飛ばないようなアンカー的機能を果たしています。

これって非常に大切ですよね。
基準があるからこそ、そこから離れた時の爆発力があるわけで、
全員が彼方にいってしまえばただの崩壊です。

また、やっぱりこの人"音価"コントロールが抜群でして、
基本的にタイト気味に弾きつつも、ほんとに時たまゲロゲロに音価を長くする部分があるなど、このシンプルな構成で、スペースがあるからこそ活きるベースの美味しい部分をこれでもかと見せてくるわけです。
関連して、Hubertはグリッサンドのセンスが本当にかっこいい。
グリッサンドって、特にベースに与えられたとても優れた武器の一つだと思いますが、
割と手癖のように入れる人って多いですよね。
しかし、本当にここぞという場所で1発かますからYeah!!!なわけで、単純な技だけど、
ひじょーーーにセンスが問われるものでもあります。

あと、今回の曲は、ベースとキーボードのセットで一つの和音を形成している感が強いですね。(※機能としては当たり前ですけど(笑)、音としてのニュアンスです。伝わりずらい、、)
実際キーボード上で、紹介したボイシングを右手で弾き、左手でベースを刻むと、
これがとても楽しいし、ここの連動がより強い曲だと実感ができるかと思います。
私の場合は、ベースが消えて右手の和音だけが残るその瞬間が一番気持ち良いです。

さて、今回はErykah BaduのNext Lifetimeを取り上げました。
非常にシンプルな作りながら、全ての音がお互いを際立たせる効果的な働きをしていました。

あ!そーいえば、Erykah Badu、確か秋にビルボードきますよね!
私は幕張の野外イベントで一度生ライブを観ましたが、これは絶対に行かねば。

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