【私的レビュー】Tyrone/Erykah Badu <from『Live』(1996)>

『Live』/Erykah Badu

しっかりやれよ、このクソ男が!

と言わんばかりの、男の悪口を決め込むこちらの楽曲について今回は記します。

ネオソウルファンなら大大ご存知、Erykah Baduのライブアルバム『Live』は、
捨て曲無しな文句無しの名盤ですが、特にこのTyroneは個人的に好きな曲です。
ベースの大音価炸裂なリフがあまりにかっこよすぎて・・・

さて、早速音楽的にみていきましょう。

コードなんなのこれ

構成は単純で、4小節の繰り返しになります。
基本的なコードは3つで、ループさせるお決まりのErykahスタイルです。
コード名としての自信はありませんが、、、

|D♭△7|G♭△7|A△7(9)|A△7(9)|

でしょうか。
説明するならば、キーがD♭メジャーで、Ⅰ△7→Ⅳ△7ときて、
最後は同主単調の借用で、♭Ⅵ△であるA△7を持ってくる、という感じ。
これほんと自信ないんすけど

それよりも、G♭△7以外はこのまま素直に弾いてもそれっぽくはならず、
音の並び(ボイシング)にコツが必要です。
一つずつ音の並びを確認していきます。

①D♭△7…

下の音から、
A♭ C D♭ F となります。
度数的には、P5、△7th、R、M3、ですので、
いわゆる第2転回型になります。

第2転回型にすることで、△7th、Rの半音でのぶつかり具合がエグくなり、
さらに4声全体がより密集する形にあるため、濁りが強化され、
いわゆるErykahの曲独特の"煙感"に合う形になっています。

また、トップノート側2音(D♭、F)を維持したまま、
次のコードであるG♭△7に移行できるため、非常にスムーズなフォームと言えます。

②G♭△7…

こちらはそのまま素直に、下の音から、
G♭、B♭、D♭、F となります。

前コードのD♭△7ではCがD♭と半音でぶつかっていることで緊張感が出ていましたが、
ここではC→B♭というようにB♭音にいくことで、解決感や音の流れを感じることができます。
その一方で、先ほど触れた通り、
トップノート側の2音は変わらないため、分かりやすい解決感を避け、
あくまで一定の緊張感を保てるようになっています。

③④A△7(9)…

下の音から、
A♭、A、B、D♭、E となります。

度数的には、△7th、R、9th、M3、P5、という独特の置き方です。

この箇所は一つのコードで2小節分ありますから、響きにシビアになる箇所です。
そんな中、こちらも素直にルートから弾くと、5声なのでかなり音に広がりが出ます。
それまでのコード展開に派手さや大きく跳躍した音の動きがないので、
ここで素直に弾くと9thの煌びやかさがパーン!と特に際立ってしまい、
うまくハマってないように聞こえます。

そのため9thを下に降ろすと、7thがトップノートになるわけですが、
依然として若干耳につく感じがありますね。。

というわけで、やはり煌びやかさを抑える効果や、さらにコードのスムーズさから、
上記のようなボイシングが確かに一番ハマるように聞こえます。

曲の肝はやくざなベース

この曲はbpm65前後という恐ろしい程のスローテンポです。
ということは当然1小節だけでも曲に強い影響を与えるわけですが、そんな中、上記の通り半音のぶつかり具合等を巧みにコントロールした濁りサウンドを、
これまた白玉全開でキーボードが煙のように弾くわけです。
それに対しドラムはハイハットとリムショットという非常にシンプルな音使い。

一方、ベースはB♭マイナーにてほぼリフのようなフレーズを繰り返します。
このフレーズにより、ある意味で緩々なこの曲が一気に締まり、
緊張感を生むのに一役買っています。

さらに、ベースのベッタベタな大音価により、独特の不気味さが強調されてますね。。
以前も申し上げてますが、この"音価"がこのLIVEアルバムでは非常に肝サウンドとなっており、ベーシストであるHubert Eaves IVの素晴らしさが詰まっています。
(こんな素晴らしいベーシストなのでなぜかあまり情報が無いんですよね・・・)

また、要所要所ではおかず程度にフィルも弾いていますが、
必要最低限に留めている辺りがこの筋の凄さであり怖さです。
シンプルに弾けば弾く程、その重〜い沈黙の裏にとても怖いものがあるのでは・・・
とリスナーを脅すような雰囲気さえもっています。
この怖さはベースに限らず、ドラムもまさにそうで、シンプルで軽い音使いが逆に怖いわけです。一瞬のチャンスを狙い、暗闇で静かに待っている様な印象を私は受けますね笑

さらにさらに言えば、途中で入ってくる不気味なシンセ弦の音もとてもシンプルながら、
これだけで曲の色が強化されているように思えます。

シンプル、シンプル、シンプル

以上、音楽的な面でみてきましたが、
この曲に関して言えば、基本的にループですし、
曲の前半後半で明らかに見える変化は正直ありません。

でも!!

なぜか、これずーっと聴けてしまう、というよりむしろ聴いていたいといいますか、
とにかく3分じゃ全然物足りない気持ちになります。
なぜここまでシンプルなのに、中毒性に溢れているのか。

これこそがまさにErykah Baduの凄さとしか言い表わせられないですが、
やはりErykahの絶対的にぶれない不動のコンセプトは当然のことながら、
その世界観を底無しの演奏力でもって支えるバンドの功績はあまりに大きいでしょう。

そこには小手先の技など一切無い、ただひたすらに究極のシンプルさで真っ向から我々リスナーに向き合う、本物の音楽の姿があるのだと思います。

 

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